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zoom RSS こけしの話(40) 山本与右衛門

<<   作成日時 : 2009/11/15 12:52   >>

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 通勤途上に見事な菊花を見るのが楽しみになった。通りから丹精こめた鉢を眺められる。黄の大輪が立ち並び、点在する小菊は床しくも可憐なものだ。この一時期のためにどれほどの愛情を注いで育てたことか。横着者の無為庵には遠い世界だが、道行く人にもおすそ分けの気持ちが嬉しい。



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 左図は最近入手した山本与右衛門。米浪旧蔵品。以下無為庵手と呼ぶ。



 この花は何?緑の葉があればこそ花かと思えるが、何とも絵心のない、素朴を通り越し粗雑なもので、花の体をなしていない。何かの花を描かねばならず苦し紛れに赤をぼったりと放射状に散らしたようにも見える。とはいえ、後年の様式化した作品の牡丹らしき花よりは余ほど印象に残る。赤点のみの蕾が背に描かれる。



 与右衛門は橘文策著「木形子談叢」で新作者として紹介された。談叢のこけし(以下談叢手)は、二側目つぶらに間隔広く、写実的な唇のおちょぼ口、小鼻のついた長い鼻、小さい前髪と鬢、近代的で理知的明快な面相の頭部、胴は肩が張り胴下部に図案化された牡丹?一花を大きく描く。橘氏は「凝って陥りやすい混沌さがなく、重厚な中に一種の新鮮味を漲らせた」と評している。手馴れた描画、形態で、無為庵手とは雰囲気が異なる。



 談叢では与右衛門について、昭和9年の春の小野寺先生からの手紙で初めてこの作者を知ったとし、「山本は盛岡市の出身で代々の木地屋である。若い時分からこけしを挽いたことはないが、最近ある人にすすめられて一関こけし復興の意味で、彼自身の記憶を基礎に研究した上、識者の意見を取入れて労作した」と記す。談叢手はこの手紙以後の作品であろうから昭和9年後半以降出版時までとなる。



 昭和13年発行丹野寅之助著「東北郷土玩具研究」67頁で、「これは昭和5年、一ノ関の郊外、千刈田に住む彫刻師玉峯氏(当時80歳位)に作って貰ったこけしの模作である」として与右衛門を紹介する。同書写真は多く残る与右衛門と同様(以下一般手)のもので、談叢手とは面相、形態が異なるものの胴絵の様式はほぼ同じになっている。こけし作成の経緯が談叢の記述と異なるが、談叢の「一ノ関こけし復興」とは祖形があったことを意味し、その祖形は宮本家以外の何らかのこけしらしきもので昭和初期に存在していたことになる。丹野氏聞き取りの彫刻師玉峯氏作の模作というのも不思議な話ではあるものの、やはり、祖形の存在を示唆する。



 「美と系譜」31頁では二本の与右衛門を紹介する。左の小山蔵(以下系譜手)は談叢手とも異なり、右は一般的なもの。系譜手の胴絵は図案化の過程を思わせ、前髪、鬢の様式は談叢手や一般手とほぼ同様であるが一側目、団子鼻?で談叢手と異なる。鼻は一般手の猫鼻への移行途上なのであろうか。



 与右衛門は昭和九年以降三人の描彩になると断じられているが談叢手以前の作品があったことは間違いなさそうだ。



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 無為庵蔵の面相をお目にかける。右目は眼点と瞼との間が白抜きになっているが眼点を一筆で描き白い瞳のようだ。左目も同様の描法だが白抜きが小さく目立たない。眉目の間隔狭くその視線は不思議なものでも見るような、困惑してちょっと視線を上げたような目である。鼻は談叢手ほどの鼻梁のない団子鼻で猫鼻の一般手と異なる。口は赤と墨の二字口。年長の子供が考え事をしているよう表情は飾り気無く素朴で、花ともいえないような胴絵の風情とあいまって風韻に富む。



 談叢手が明快ならば、一般手は様式化、系譜手は混迷といえるかもしれない。無為庵手は系譜手以前の始原の混沌のようでありながら、系譜手のエキセントリックとは異なりしっかりと実在感を示す。(6寸5分)



(追記)



民芸「おもと」で若いご夫婦に出会った。こけし蒐集2年とのことだが、実に楽しそうな様子だった。無為庵にもそんな時代があったが、その頃の楽しさはもう取り戻せない。奥深い豊穣な世界が見えるようになるまで、ゆっくりと長続きして欲しい。すべての初心者にエールを送る。





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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんは。
過日は本当にありがとうございました。

以前から、こけしについてわからないことがあると、必ず「無為庵閑話」さまに行き当たり
何度も拝読させていただいておりました。

山本与右衛門、実物を目の前にすると本当に迫力がありました。
実は入札会の最終日の夜、ひやねさんにお邪魔し実物に会っている筈なのですが
少なく浅い知識から、別のこけしに気をとられていたものと思います。
改めて1本、目の前に与右衛門こけしと対面して、手に取らせていただいてみると、その存在感に圧倒されました。
ほんとうに不思議な表情をしていますね。

伝統こけしに出会って、系統や型の多様さに触れたとき
こけしの表情のデフォルメは、すぐれて日本の伝統を映すものだと驚きました。
それぞれが、(省略されているのに)実にたくさんの感情を鮮やかに描いていて
見ていて飽きることがありません。


わたしどもも、蒐集をはじめて日が浅く
まだ聞くもの見るものすべてが新鮮な状態です。
なかなか金銭的にも多くを割くことができない現状ですが
こけしに触れ合うことが、今、なによりも楽しい時間です。
身の丈にあった蒐集を心がけながら、細く長
えりねこ
URL
2009/11/16 01:43
えりねこ様
コメントをいただきありがとうございます。
はからずも与右衛門をお目にかけることができました。ごく地味なものではありますが、浮き立たず地に着いたこけしだと思っています。何かのご参考になったとすれば喜ばしい限りです。
またお会いできるかもしれませんね。 無為庵

無為庵
URL
2009/11/16 22:30

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