こけしの話(17) 小松留三郎

 このブログもいつのまにやら1年以上経過した。各系統のこけしを選定したいところだが、所蔵品が偏っており無理なことである。昔は鳴子をほとんど持たなかったが、最近では鳴子が少し増えてきた。こけしは鳴子に始まり鳴子に終わると言った先達がいるが、分からないでもない。やはり鳴子はこけしの基本であるようだ。自己満足で開いているブログではあるが、ご要望にはできる範囲でお答えしたい。ご意見を賜れば幸いである。



画像
 今回は小松留三郎をとりあげる。毎度のことながら写真が上手く撮れない。この写真は殊にひどいもので申し訳ないが、この程度が無為庵の限界なのでご容赦を。綺麗な写真は愛玩鼓楽か古作図譜を参照されたい。ちなみにこけし辞典の写真もこのこけしである。



 このこけしは横浜の古名品展に展示され、最近では銀座松屋でも展示されているので実物をご覧になった方も多いと思う。古色が強く、大きくもなく、ぱっと見には目立たないこけしなので、どれだけの人が注目したかは疑問である。かくいう無為庵自身が古名品展で見ている筈なのに古作図譜の写真になるまで意識しなかった。古名品展会場では他の名物に目を奪われていたようで、展示されていた記憶も無い。なんとも情けない話であるが、当時の眼力では仕方ないことでもある。その後出版された古作図譜を繰返し眺めているうちに、次第に気になりだし、ついにはあこがれのこけしとなった。その頃は入手できようなどとは夢にも思わず、限りなく遠い存在であった。紆余曲折を経て無為庵所蔵となったが、民芸「おもと」ご主人にはただただ感謝するのみである。思い出話はこの辺にして本題へ。



  このこけしを小松留三郎と断定する根拠はない。辞典では「留三郎らしきもの」とされ、古名品展では鳴子不明とし、古作図譜解説では「留三郎じゃないか」とされている。古作図譜解説の記述では「底に山形県上ノ山と書かれている」としているが、正確には「山形尾花沢」と書かれており記憶違いと思われる。底には更に「山形」と書いてあり、中心には「小松○○郎」の記載がある。○○の部分は二字分ほどのスペースと見たのだが、「鼓堂」の印が4箇所押してあるのと、切り離し中心の凸部でまったく判読できない。



 底の記載は誰が書いたものか、鈴木鼓堂氏か前所有者か、尾花沢に行ったときに買ったものか、「小松○○郎」と何故に書いたのか皆目見当がつかない。辞典によれば尾花沢は小松留三郎が生まれた所で出生直後に鳴子に移転したとされており、後に留三郎が明治43年上山で木地工場を作ったとし、尾花沢に戻ったとはされていない。大正末まで尾花沢には鳴子系の工人がいたそうなので、あるいはその工人のところに置いてあったものかもしれない。いずれにせよ上山ではなく尾花沢との記載には何らかの意味がありそうだ。



画像
 表情のアップをご覧にいただきたい。向かって左の眉目は一筆の素直な柔らかい線で描き、対照的に右の眉目は中央にアクセントをつけている。胴模様は牡丹の三段であり、五平や松三郎の祖形であることは間違いないと思われるが、この眉目の描きかたは単なる一筆目ではなく、五平や松三郎には類例が無い。胴下に描く土は古い鳴子に共通するが、鉋溝上部の肩に花弁らしき赤を二箇所描いている。写真では赤いロクロ線のように見えてしまうが、正面部分と左側面で左は溝を越えて花弁が描かれている。後年の五平や松三郎には受け継がれなかった、或いは忘れてしまった様式であり、このこけしの古さを物語っている。



 目に戻るが、このような目をどこかで見たと思われる方があれば、らっこコレクション図譜371番を参照されたい。大沼誓とされるものの拡大図でははっきりと両眉目のアクセントが分かり、土湯のつぶし目や小原の目に似た感覚を持っている。この誓は両眉、両目にアクセントをつけているが、留三郎は右目のみ強くアクセントをつけている。古い時代には鳴子のこけしもこのような目を描いたのだろうか。或いは誓と留三郎はどこかに接点があったのであろうか。名和コレクション図録443番に留三郎とされるこけしがあるが、鳴子とは程遠いもので、もしこれが留三郎であるならばご当地風に描いたものであろう。留三郎とされるただ二本のこけしがこれほど違っていては検証のしようもない。



 作者の詮索はさておいて、このこけしは実に古風かつ鄙びた味わいがあり、大らかに健康に微笑んでいる。見栄も衒いもなく静かに佇み、見るたびに何か懐かしくほっと素直な気持ちになれるこのこけしをどう形容すればいいのか、文才の無さを嘆くのみ。とまれ留三郎の両眉目の相違がこのこけしに酷と潤いをもたらしているようだ。(6寸3分)





ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック