こけしの話(18) 小椋米吉

 この時季、鯉は池の底でじっとして動かない。池には覆いを掛け、春までお休み状態になる。当面、こけし中心に組み立てるが、こけしの話にはある程度の準備が必要なので、プロフィールページで多少の遊びをしてみよう。いろいろな写真を掲載する。



画像
 今回は原と写しを紹介する。写真は祐天寺の「つどい」を通して平成3年に北山賢一氏に依頼した原とその写し(右)である。余りにも暗い画像だったので明るく調整したが、色が変になってしまった。写しはいたや材の新品でみずき材よりは色味があるものの写真ほど赤くはない。いたや材の新品状態で想像していただければと思う。原はみずきでやや古色がついている。原が誰の作か定かでない。作者名などは符牒のようなもので誰の作であれ品物が変わるわけではない。とはいえ、この写しは当時かなりの数が製作され購入した人も多いと思う。その方々ためにも少々検討する。



 このこけしは装飾性少なく、省略のめりはりをつけ、空間を上手に生かしており、豆こけしを作る感覚に秀でている。よほど作り慣れた工人ないしは工房の作であり、候補者としては米吉あたりが有力かとは思うものの、これほど小さなものを作るのは若いうち、との疑問も生ずる。かつて無為庵が所蔵していた袖珍の米吉は、眉を省略し目も一筆の中央に眼点様の点を打っており、様式的には相通ずるものがあるが、かなり破綻著しい筆力のものであった。袖珍の大きさですら破綻するような老齢の工人がもっと小さいこけしをこれだけ纏まった味に仕上げられるものなのか、それとも、そのときの調子で作柄に大きな相違がでてしまうのかなどと考えると堂々回に陥ってしまう。



 さりながら、米吉・俊雄の作で俊雄とされるものは概して空間を埋めることに腐心し装飾過多なものが多い。紫を使うものは俊雄などとの説もあるが、これも定かでない。誰が真の作者であるかはともかくとして、米吉工房では簡素なものと装飾性の強いものとの二様の作柄になっていることは事実であり、この装飾過多のほうを俊雄と分類するならば、この豆はいわゆる俊雄作の感覚ではない。とはいえ、年齢等を考えると実態は米吉感覚の俊雄作とするほうが正しいのかもしれない。或いは全く別人の作かもしれないし、作者名の詮索にはもう少し比較資料が必要なようだ。



 かつて「つどい」では今晃や賢一などにいろいろと復元をさせており、無為庵も原として多兵衛や米吉などいくつかを提供した。今考えれば、工人には迷惑なことをさせたのだと思う。一時的な目先の変化を求め、或いは、原を持っているなどとの見栄や指導者になったような錯覚を持ちたいマニアに協力させられる工人はどのような思いがあるのだろうか。無為庵所蔵の原と写しで、その双方をいまなお所蔵しているのはこの賢一写しと原のみである。写しを作らせる以上は、少なくともその原を持ち続けることが工人に対する最低限の責任であったのだが、原としたこけしそのものに興味を失ってしまうようなものを写させてしまったことは恥じ入るばかりである。



 この豆こけしは数回写しが作られている。この原はその前の米吉1寸5分の写しに続くものであったが、写しが送られてきても原が戻ってこなかった。今は亡き「つどい」ご主人曰「賢一氏がもう少し手元において写してみたい、というので了承してくないか」とのこと。原が戻ってきたのは3回目の写しのときだったと記憶する。10数年過ぎてから北山賢一氏との雑談のなかでたまたま豆こけしに話が及び、10数年前の豆こけしの写しに謝意を表したところ、「あんたに作らされたのか、あの頃はあんな小さいのばかり作らされてすっかり目が見えなくなってしまった、そうか、あんただったのか」と感慨深げにいわれてしまった。賢一氏の記憶違いか、無為庵の記憶違いか分からないが安易に写しを作らせるのは考えものであることを再認識させられた。



 この写しは原の持つ雰囲気を実によく写しており、古色がついたらどちらが原かわからなくなりそうだ。洒脱な胴絵、目と口だけの面相でありながら狭い空間にマッチするおおらかな夢の中にいるような笑み、豆のつぼを掴んだ写しである。これは1回目の写しであるが、その後の写しも同様のできのよさだったと記憶する。ただ一点残念なのは、写しには現代的にシャープな感覚が感じられ、原の持つふくよかさが少々足りないことである。見方によってはすっきりとしているとし、この方が良いとする意見もあるかもしれず、この差は好みの問題かもしれない。前述のように原も写しも処分してしまったなかで唯一残った原と写しである。(1寸)



追記 無為庵閑話では現存工人についての論評は一切しないことを原則とするが、今回は懺悔録ということでご容赦願いたい。老婆心ながら、北山賢一氏の談話は小生との打ち解けた雑談のなかでの発言であるので誤解のなきように。



 



 





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