こけしの話(30) 佐藤正吉

 裏山の梅の花が満開になり、少し春めいてきた。繁忙期前に更新しようと思ったのだが、同じタイトルも30回となると過去の掲載品を思い出せない。内容が分かるタイトルにしておけばよかったと悔やまれる。前回紹介したshakaz氏のホームページは内容を徐々に充実してきておりたまに覗くのが楽しみだが、ひと様の更新は待つだけでなんとも気楽なものだ。



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 さて、今回は「こけしの話(4)」の続きで佐藤正吉を採りあげる。たまたま写真が撮ってあったからに過ぎないが、面白いエピソードもあるので紹介したい。



 このこけしを購入したのは平成元年夏のことであり、早いもので20年も前になる。こけし店で買うか買うまいか迷っているさなか、某こけし会重鎮?が来店し、評して曰く「いい正吉ですねえ」、次に手に取り「○万△千円、高いなあ!」と仰せになったことを昨日のことのように思い出す。○△万円を一桁読違えたのだが、価格のみならずこけしも見損じていたようだ。「それ私が買ったものです」と店のご主人に手渡したところ、ご主人は「はい、無為庵さんお買い上げ」と言ったのみで価格には触れなかった。ご主人には無言の教えを受けたが今はもう鬼籍に入られている。ご冥福をお祈りする。



 その後、このこけしは松屋で展示され、雑誌「骨董道」に登場し、本閑話で紹介されるなど無為庵所蔵品にしては珍しく活躍している。20年の間に無為庵の顔ぶれも随分変わってしまったが、庵中に変わらず同居し続けている。



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  この時期になると大正期の野趣横溢する迫力は鳴りを潜め、均整のとれた上品なこけしへと変化しているが、強い視線の剛直な味を隠し持っている。遠刈田若手の白眉とされた所以であろう。直助の指導といわれるが巳之吉の影響を強く受けたのではないかと思えてならない。三段重菊も線描きのようなざっくりした菊からぼったりとしたふくよかな菊へと変化し温かみを感じさせる。 

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 たっぷりと大ぶりに描く手法は後頭部の三山にも顕著に現れる。面描は線の細い均整を持ち情感を抑え気味に、胴は筆太に量感を湛える。相反する描き方を破綻なく調和させ、見るものをして息苦しいほどにはならない心地よい緊張感を覚えさせる。完成度という点では正吉の全期間を通じて最も高みに至った時期であろう。



 その後は、ちまちました四段菊へ変わり、面相もたっぷりと情感豊かなあからさまなこけしへと変化する。濃厚な深情けといった風情を持つようになるが、粘りつくようで無為庵の好むところではない。



 品の良い昭和初期正吉こけしは名品といって過言ではないと思うが、未完成ながら野趣溢れる大正期正吉のぐっと心を掴むような魅力に無為庵は心惹かれる。(8寸)



 





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