こけしの話(4) 佐藤正吉

 こけしの話ばかり書くつもりはないのだが、適当なテーマが浮かばない。今回のこけしはどこかで見たようなと思われる方がおいでのことと拝察する。かつて「名作こけし写真ギャラリー」に掲載されていたこけしである。

 無為庵はサイト開設者に無断使用に対する抗議の書き込みをしたのだが、この書き込みに対し「芋庵」と称するものから「無為庵のような者がこけしの世界を駄目にする」との非難を受けてしまった。名品を所蔵する者はすべからく公開すべきであって無断使用されようが甘受しなければならないとの趣旨だったとすれば、「芋庵」氏のとんでもない心得違いである。こんな非難の応酬があって嫌気がしたのか、その後「名作こけし写真ギャラリー」は閉鎖されてしまった。そこまで求めたわけではないので残念な思いがする。

 無為庵はかつて「骨董道」という雑誌にこけしの連載を依頼され、創刊号で正吉昭和5年作を紹介した。第2号でこの大正末正吉を採り上げる予定のところに「写真ギャラリー」に掲載されてしまったのである。ところが出版元の事故もあって結局第2号は発行されずに今に至っている。「骨董道」創刊号を購入された方のためにも今回紹介することとした。



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 大正期正吉は「こけし襍記」図版8で大小9本が紹介されている。同書では小さい方を正吉、大は?としているが実物を見ると胴絵や鬢は全くおなじ描法で同一人の作である。「襍記」の図版は小さいうえにモノクロで分かりづらいが、小の同手は「こけし古作図譜」116で鼓堂旧蔵品が紹介されているので参照されたい。この時期の正吉が写真紹介されたものは他にないようなので、今回の紹介は貴重なものと自負している。



 さて、この時期の正吉の評価であるが、「こけし古作図譜」解説では評価が分かれている。小6寸の方を題材にしての評価ではあるが興味深い見解の相違なので是非一読していただきたい。先人の確立した評価をそのまま鵜呑みにするのか、目の前のこけしを自己の判断基準で評価するかの基本的対立があると思うのは無為庵のみであろうか。



 今回のこけしを入手するまで無為庵も昭和5年の正吉が最高のものと思っていた。白状すれば、このこけしを入手した時点では遠刈田不明とされ大正期正吉とは分からなかった。相当に高価(5年の正吉以上)であり年代も作者も分からなかったが、それでも、強烈に惹きつける生命力のみなぎる迫力に圧倒されたのを覚えている。今日、テレビで土に生きる津軽の米、りんご農家の紹介番組の中で「杙」と題する巨大な立ちねぷたが映っていた。東北農民の土に対する苦闘と祈りを仁王のような形相で表したものだそうだ。このねぷたを見たとき東北農民の魂の根源の表現だなと思うとともに、今回の正吉を思い出した。



 正吉は北岡で直助の指導のもと昭和5年の甘味な傑作に至ったとされているが、もし、直助の指導がなかったなら、その後どのようなこけしを造ったのであろう。5年の正吉は確かに落ち着きと品のある傑作ではあるが、みなぎる生命力では大正期正吉に遠く及ばない。野趣横溢する荒削りな大正期正吉は圧倒されるとともに、いっそ清冽な清清しさを秘めている。(7寸7分)



 追記 ブログを表示してみたが写真では迫力が伝わってこない。やはり実物でないとだめなようだ。感想など書き込んでいただければさいわいである。


(2016年10月25日追記)
上の写真は、当初の掲載の写真データが失われてしまったため、アルバムの写真をスキャンしたものである。顔のアップ写真もあったので今回追加する。なお、拙著「撰」にはSHAKAZ氏撮影による味わい深い写真がある。ぜひ鑑賞されたい。
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この記事へのコメント

sk510713
2011年08月05日 22:38
良いモノすぎて,言葉が出ない・・・
無為庵
2011年08月05日 22:38
SK510713さま
コメントをありがとうございます。実物を見る機会はほとんどないような品物で恐縮ですが、評価の固まったようなこけしよりも自由に観賞できるのではないでしょうか。
頭偏僕
2011年08月05日 22:38
「こけし古作図譜」解説読みました。掲出の3本を並べて観ていることを前提にすれば遠刈田古作に造詣の深いM氏の発言などはちょっと不可解ですね・・・?
無為庵兄の「・・・基本的対立がある・・・」はこけしを観る上で大変重要な指摘ですが、好意的に見ればこの場合は解説の立場上役割分担をしてH氏やM氏が敢えて一般的見解(先人の確立した評価)を述べることにしたのではないでしょうか?
いずれにしても「大正期正吉」素晴らしいです。描彩もさることながら、7寸7分でこの力感は尋常ではありません。現物を手に取ったときの感触のよさは如何ばかりかと羨ましい限りです。
それにしても「ザッ記」で9本も並べた鹿間さんの大胆さには驚きます。

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