こけしの話(39) 鎌田文市

 無為庵の愛犬に腫瘍が見つかった。老齢で開腹手術は困難とのこと。人間で言えば百歳前後らしい。食も細り寝てばかりいるが、孫は会うことを楽しみにしている。孫を楽しませて一日でも長く穏やかな余生を過ごさせたいと切に願うのみ。



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 無為庵も最近では濃厚な味に多少の圧迫を感じるようになってきた。強く魂を揺さぶるこけしの魅力とは対極にあるような、ほんのりと無心に佇むこけしに何故かほっとさせられる。叫び声が聞こえそうな周助などは気力が充溢しているときでないと見ていて疲れてしまう。



 この鎌文はまっすぐ穏やかな視線とこぼれ落ちそうな頬が赤子の無心を見るようで、気力の萎えたとき、心に沁みる。赤子に接するとき、欲も得も無く、幸多かれと願う。ひとときでも雑念を忘れさせる赤子は大人に浄化作用をもたらすのかもしれない。そんな思いをおこさせる鎌文である。



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 全身像の顔にストロボの反射が写ってしまった。子供の鼻筋に白いドーランを塗ったようになったがこれはこれで面白いかとこの図にした。



 四段の重ね菊、裾は赤、肩には緑のロクロ線二本。胴はごく緩やかな裾広がりの直胴ながら、裾赤ロクロ線二本の中央で急激に角度を開く。畳つき辺りの広がりの変化が形態の安定感をもたらす効果があるようだ。



 図では肩の緑が殆ど見えないが、実物ではもう少しはっきりとしている。上下のロクロ線の色を変えているがその理由が分からない。背面の濃い緑であったなら相当に違和感があるように感じる。褪色したこの状況で見るとき、胴のロクロ線に抵抗を感じない。



 遠刈田様式の重ね菊はそれぞれの菊が不揃いながら闊達で微妙な変化を楽しめる。鎌文後年の重ね菊は判で押したような味の無いものになっている。鎌文に限らず神経質に隙無く描かれた胴絵には手間がかかるだろうなとは思うが、趣を見出せない。



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 頭頂の写真。赤と紫のベレー。その回りに赤と緑の飾りを均等に配している。こけしの話(33)の鎌文とは配置が異なる。蒲鉾飾りが鎌文こけしの制作年代特定の決め手になるか否かは分からないが、他の弥冶郎こけしには蒲鉾に同様の変遷を示すものがなかったと記憶する。無為庵の不勉強(記憶の低下もある)の故かもしれず、このような変遷を示すものがあればご教示いただきたい。



 いずれにしても、正面から見る限りでは(33)と今回(39)とでは蒲鉾が少々小さくなっただけの相違でしかなく、顔面上部の赤蒲鉾の印象はかなり強い。その後は正面に蒲鉾をすべてもってきてしまうが、こうなると本質的に違ったものとなる。



 (33)は絶妙な形とやや濃いめの表情であり、(39)はほんのりと控えめな表情だが、今の無為庵にはどちらも捨て難い。(7寸)





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