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zoom RSS こけしの話(51) 石沢角四郎

<<   作成日時 : 2016/11/08 22:25   >>

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 寺社巡り再開、数か所で天候不順により中断。無聊に「木楽」を紹介し、懸案だった「無為庵閑話U」空白写真の補填作業に着手したが少々くたびれた。気分転換に記事を更新すべく、気にかかるこけしのひとつ、石沢角四郎の豆を取り上げることとした。こけし文献を久しぶりに紐解いたが、勝手を忘れており、少々手間取りそうだ。まずは全体図(1寸)。
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 これが角四郎?と思われるかもしれないが、作者の詮索はさておき、眠気に抗しきれずうとうとする子供のような柔らかくもおおどかな表情をご覧いただきたい。一筆目の豆なればこその味わいであるが、無造作に素直な作行きである。頬のあたりのカーブに角四郎を感じる。

 角四郎は「鴻」第7号(昭和16年1月28日)で紹介頒布された。その記事では「昨年9月、東京深澤要氏によって発表された作者」とし、囲炉裏端に座る角四郎の写真と三本のこけし写真を掲載しているが、「鴻」第7号出版時期から考えると昭和15年(9月から12月)の撮影と思われる。深沢要入手こけしは「こけし辞典」に掲載され、下瞼が下向きに湾曲した角四郎独特の『びっくり目』である。こけし辞典では「十日月の目」とするが温海や中ノ沢、津軽等々その他の下瞼の膨らんだ目とは異なる味のニュアンスが出ない。角四郎のこけしは数あれど、この『びっくり目』こけしは極めて少ない。手近な資料に当ってみたが、「こけし鏡」、西田峯吉コレクション、鈴木鼓堂コレクションに僅かに見いだせたのみである。「鴻」第7号の角四郎はもはや『びっくり目』とは言えない。『びっくり目』の作は探せば他にもあろうが、第一次ブームの頃としては残るものが僅少で、発表後極めて短期間に作風が変化したかのようだ。
 ところが、日本こけし館の深沢要旧蔵品は「Kokeshi Wiki」で二本が紹介されており、一本は辞典掲載の「びっくり目」、一本は下瞼の湾曲が上を向く目で、共に昭和15年9月作とする。同時期に下瞼の異なる目を描いたことになるが、二本とも目じりが離れるなど下瞼の向き以外の描画は近似している。その後、昭和16年にはすでに『びっくり目』を描かなくなるが、当時の風潮にあわなかったのか、心境の変化か、単に無為庵が存在を知らないだけか、何とも言えない。
 ここまで書いて、下瞼の湾曲具合を考えてみた。弓張月は上下弦が水平な月で八日月を上弦の月といい、十日月はその二日後でやや弦の部分が膨らんでくるが満月まであと五日もある。下瞼の膨らみが強い温海などは十三夜ないしは十四夜の月といえそうだ。角四郎の膨らんだ下瞼の湾曲は深沢手の復活初作が最大でその後の作では徐々に緩くなるように思われる。緩やかに変遷したと言えば分かりやすいが、復活初作に二種類の目があるということはこの他にも種々の下瞼が同時に存在した可能性は否定できない。製作時期の明確なサンプルが少なく判然としない。いずれにせよ、文献等では弓張月に近いものまで十日月と表現されているが、角四郎こけしは目の描き方によって情感が相当にる異なるように思え、十日月の目と一括りにすることにはかなり違和感を覚える。
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 上は本閑話「三寸こけしの話(4)」角四郎の再掲。同話では「角四郎復活初期の作品は下瞼が膨らんだ目を描くが、ごく短期間でこの特徴はなくなってしまう。寄り目で子供がびっくりしたときの一瞬を捉えたような表情がなんともほほえましい」とコメントしたが、少々舌足らずの感がある。「びっくり」といっても驚愕や恐怖、魂消る、大いなる驚きなどではなく、「思いがけず出くわしたちょっぴりうれしい出来事で破顔に変わる寸前の驚き顔」とでもいうべきであった。寄り目の具合がこの表情を軽やかなものにしており、温海、中ノ沢その他の「下瞼の膨らんだ目」にはない角四郎独特の飄逸世界を作りだす。

 さて、本題の豆こけしに戻る。角四郎豆こけしは「鴻」第7号頒布の1寸、袖珍こけし頒布28番の1寸7分が知られるが、かつて豆こけしにのめり込んだ無為庵の経験では袖珍以外にはほとんど見たことがない。鼓堂コレクション図録でも復活初期作と袖珍しか載っていない。袖珍の角四郎は第2回頒布(昭和17年2月)で復活期のほぼ1年後となるが、すでにその頃の大寸の縮小版のような硬いこけしになっている。
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上図はその袖珍28番角四郎。保存状態も悪く、ボケた写真で恐縮だが、大寸縮小版の意味は汲み取れると思う。袖珍28番を紹介している文献は他にもあるがかっちりとした感覚は上図と似たようなものである。
 前述したように、角四郎豆こけしは袖珍の他に「鴻」頒布の1寸が存在する筈だが、無為庵は「鴻」頒布と確実に言える角四郎1寸を見ていないので、どのようなものか分からない。無為庵の知る限り、文献上の角四郎豆こけしは二側目か一側目で一筆目は存在しない。戦後作では一筆目もあるようだが、ここでは対象外とする。では、何故に冒頭豆こけしを角四郎とするのか、本音を言えば初期角四郎の雰囲気を感じるからであるが、これでは説得力が全くないので根拠らしきものを少々検討する。
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 上の上段写真は冒頭角四郎豆こけしの胴絵、下段は三寸角四郎の胴絵であるが、ほとんど同一の描き方である。芯の青点下の赤花弁に特徴がある。幅を均一に左右の花弁に掛かるように横長に描かれる。菊の花の形が胸部レントゲン写真のようで面白い。
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 頭部を参考までにお目にかける。1寸のためかなり省略した様式であり、根拠としてはいささか弱いが、前髪横、鬢上の赤い飾りの描き方は三寸角四郎に似る。タイトルを角四郎とし豆こけしの分類にした根拠はこの程度のものであり、やはり、初期角四郎の雰囲気を感じるといったほうが無為庵の気分にはしっくりする。角四郎は注目されることのほとんどないこけしであるが、初期には括目すべき独自の世界を作ったというべきであろう。

(追記)並行して空白写真の補填作業を行い、こけし関連の記事はほぼ埋め尽くしたと思う。こけし以外の写真は今後の課題としたい。

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